WEB版第2回 吉澤嘉代子さん(シンガーソングライター)と 花組「うたかたの恋/ENCHANTEMENT-華麗なる香水-」2
最果タヒ
2023.10.19
2 吉澤嘉代子から最果タヒさんへ
このたびは素敵な招待状をありがとうございます。寄稿のご依頼と思って目を通した瞬間、最果さんからの直々に綴られたお誘いだと気付いてびっくり。その完成度から、企画は既に走り出している……! と思いました。冷静な眼差しで真摯な熱を帯びたラブレター。好きな人の好きなものを教えていただき胸キュンです。
初めての宝塚歌劇。以前から興味はあったものの、高尚で純潔な花園にどう踏みこんでよいのか躊躇いがありました。いっそ誰かに突き落として欲しかった私にとって、今回のお誘いはこの上ない完璧なチャンス。即座に「是非。」とお返事しました。
当日、劇場前で「スピン」の編集さんが迎えてくださいました。朗らかな笑顔で「うたかたの恋」のパンフレットを手渡してくださり、観劇をご一緒する方が優しそうなお姉さんでヨカタ……と安心した私はこの後に編集さんの本領を知ることになります。
入り口を進むと煌びやかなシャンデリア。薔薇が咲き乱れる紅い絨毯。エレガントな階段を踏みしめながらこれが本物の宝塚か、とうっとり。統一された世界観は、麗しい舞台を日々ブレずに届けることが約束された証なのだと思いました。
お客さまたちは思い思いの装いをされていて、もう少しで会える最愛の人に思いを馳せている様子が窺えました。私は誰かに会いにいくためにお洒落をする人を見るのが好きです。その一張羅が、そのメイクアップが本当に目に留まるかわからなくても、今いちばん綺麗な自分で会いにいくという姿が愛おしくてたまらないのです。
私が劇場の様々な情景に見惚れている間に、編集さんは宝塚の歴史や押さえておきたいポイントについて丁寧かつ早口に説いてくださりました。その情報量たるや。お陰で宝塚知識のない私も開演までに沢山のインプットができました。まずはパンフレットを飾る麗人、花組トップスターの柚香光さん。なんでしょう、この紙面から漏れるただならぬオーラは。これはとても危険だぞ、好きになったら身を滅ぼしてしまうタイプの人だワ……。生オーケストラの音出しに混ざり私の胸には波浪警報が鳴り響きます。そして花組トップ娘役の星風まどかさん。ファッション誌に登場しそうな今時のキュートさと非の打ち所がない美貌。見事な大輪の花が咲いておる……。おいおい、いくら宝塚でもこのカップル顔がよすぎるッ! 幕が上がる前から完全に現実を超越しました。
そして始まった舞台。今思い出してもウルウルきます。ああ宝塚でトップを担う人って、満場一致でこの人だと納得させる輝きに溢れているのだなと思い知りました。歌も踊りも完璧なのはもちろんのこと、それ以上の何かを発しているのです。好きな人の背中はすぐに見つけられた少女の頃のように、どこに居てもどんな衣装を着てもその人だとわかる。柚香さんの色気ったらないです。ステージが浸水する勢いでだだ漏れです。星風さんは女神。美しいだけではなく芯が強いこと。何よりお二人とも立ち姿が別次元です。背中に鉄板が入っているのかと思うほど真っ直ぐな姿勢が格好よい。
編集さんにお借りした双眼鏡(二つお持ちでした)を覗くのに忙しない中、私はある方を目で追っている自分に気付きます。休憩時間になりすかさずパンフレットをめくると、聖乃あすかさんというお名前を知りました。聖乃さんについて尋ねると「ほのかちゃんですね!」と編集さんの目が輝いた気がしました。ほのかちゃん、なんだかほんわかしていて可愛いのです! だけどショーで魅せる妖艶さもあり、色々な顔を演じることの出来る方だなと夢中になってしまいました……。編集さんとも盛り上がりすごく楽しかったです……。
こうして夢のような舞台を味わわせていただき感謝しております。最果さんからの招待状には「恋」と「型」について書かれていましたね。その視点で拝見できたのも見識が深まりました。頬に触れる指先、キスをする角度、愛を囁く声色。演者のプロフェッショナルな表現と、応えるように感嘆するお客さまからの愛。その交換をまざまざと見せつけられる至福の時間でした。
素晴らしい表現者は去り際まで心を射止めます。こんな仕草が、あんな表情があるのか。私もちゃっかり自分の引き出しに盗むべく目に焼き付けました。
(③へつづく)
(よしざわ・かよこ/シンガーソングライター)